森進一『襟裳岬』 曲の謎やオチ解説


襟裳岬 / Nao Iizuka


 今回紹介するのは歌『襟裳岬』
1974年の森進一が歌唱した曲。

評価の高い作品で、発売累計は100万枚超えを記録、そして複数の賞を受賞した。

作品は難解だ。心情描写が多くさらに状況説明も少ない。聞き手に推理や理解力を要求する。

今回は『襟裳岬』の制作経緯や歌詞で不可解な部分を解説。

聴いて分からない方向け。なるだけデータを集めて憶測は避けた。 
自分が聴いた印象を変えたくない・知りたくない方は見ちゃダメです。


■ はじめに ~  曲情報や概略 


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 『襟裳美咲』は1974年に発売された森進一のシングル。

作詞は岡本おさみで作曲は吉田拓郎。

題名の『襟裳岬』は地名。北海道の太平洋側の岬だ。



■ 制作経緯

 『襟裳岬』は、日本ビクターの50周年と音楽部門独立1周年に合わせて同社歌手向けに企画された曲のひとつ。
演歌にとらわれず幅を広げたいという森進一と同様にフォークの垣根を超えたい吉田拓郎側の意向も一致して制作された。吉田拓郎と岡本おさみのコンビによって曲が作られている。

 発売後: 
曲は大ヒットとなる。
累計で100万枚以上の売り上げを記録。レコード大賞と歌謡大賞を獲得。森進一は同曲紅白のオオトリも務めた。

● 関連作品

1974年に吉田拓郎がセルフカバー。

以降も多くの歌手によってカバーされた。




■ 曲のあらすじ


曲の構成は難解だ。

焚火を題材に、他者や自分の想いを語る内容。そして地名の襟裳岬が入る作りだ。

歌詞の大部分が人生の苦難や思い出を語っているため受け止めやすい。
だが細部を見ると難しい曲だ。季節や舞台、そして主張が理解しにくいのだ。


■ 謎解きと解説


 
襟裳岬 / Nao Iizuka


 設定やわかりにくい部分を解説。

襟裳岬はかなり後年に制作者により語られたり、関係者以外が語った情報も多い。

今回は書籍や確実に分かる発言記録などを元に考察する。

襟裳岬を読み解くにあたり難しい部分がある。
ヒット作で良くある話だが、複数の人物が『私がこのアイデアを出した』という場合が多い。また制作当事者の話であっても随分と後年に語られている場合も有る。つまり後だしで美化される、整合化しようと感じる場合がある。

そのためなるだけ古い発言などから曲を読み解いた。また故人を関係者が語るような鮮度が低い、もしくは真相に遠い情報は参考にしなかった。無茶な推測やこじつけなどは避けた。


 ■ 用語解説: 曲名 人名,

 解説に使う用語

襟裳岬(森進一)= 襟裳岬の歌 森進一バージョン

襟裳岬(短編詩)= 岡本まさみの短編詩で詩集掲載版 襟裳岬のタイトルやさび部分の元

焚火Ⅰ = 岡本まさみの短編詩。襟裳岬(森進一)の歌詞原型
焚火Ⅱ = 焚火の続編




■ 襟裳岬の構成 制作経緯と曲内容


 襟裳岬を理解するのに前提がある。
今作が難解なのは理由がり、実は二つの短編詩が合体して出来ているのが大きい。

 ・制作経緯
曲の制作時にベースとして岡本まさみの短編詩『焚火』が選ばれた。
その後、タイトルが弱いとして、同じく岡本まさみの短編詩『襟裳岬』が選ばれた。また詩の一部が森進一版に導入された。


■ 曲のベース 1. 岡本まさみの短編詩 『焚火』

  
 Big log 2 / Tim Evanson


襟裳岬の森進一版で歌詞は岡本まさみの短編詩 『焚火』がベースとなっている。
内容;森版の歌詞で大部分を占めてており、人生の想いと焚火が題材。他者に語り掛けるような構成だ。

■ 曲のベース 2. 岡本まさみの短編詩 『襟裳岬』

  
 IMG_9901-1 / zunsanzunsan


襟裳岬の歌詞を製作の途中。タイトルが弱いという指摘があった。そこで岡本まさみの短編詩『襟裳岬』から題材とサビが引用された。

内容:『襟裳岬 詩集版』は、旅先から都会に住む「キミ」に便りを送る自分の心情を描いてる。文は告白に繋がる内容だ。 その中から「襟裳の秋は何もない秋です」と言う部分が『襟裳岬』森進一に使用された。




■ 構成の難しさ ~ 二つの詩があわさる

襟裳岬(森進一版)は 二つの曲が合わさることで難解になっている。

私の考察だが、歌詞の内容に行間が大きすぎる。聞き手に想像力がいる。

例えば 曲冒頭は初冬の話なのに、いきなりさびで春の話になるなどだ。これは「襟裳の春は何もない春です」の部分がオチの前出し、リフレインなのを理解してないと混乱する。


1. 文体では二つが合わさっている。

 
Fireplace at Mom's / Uncle Catherine


原型となった二つの曲はスタイルが違う。
『焚火』はおおむね焚火題材に他者に語り掛ける内容。「襟裳岬(岡本版)」は旅先から手紙を送る心情描写だ。

それゆえ『襟裳岬』は季節や語り手の立場が分かりにくくなっている。

例えば焚火では人生を語る。 だがさびでは突然とその場にいない人に語り掛ける「襟裳の春は何もない春です」という言葉が出てくる。

これも上で述べた「襟裳の春は何もない春です」の部分がオチの前出し、リフレインなのを理解していると曲理解の手助けになる


2. 主題も二つが合わさっている。

 
東京 / wongwt


襟裳岬(森進一版)では、焚火と詩集版の歌詞が合わさり、そして大分整理されている。
『焚火』は人生を語っている。
「襟裳岬(詩集版版)」から転用された部分はそのさびだけだ。経緯は省かれている。都会へ住む君へ都会のわずらわしさを忘れるように襟裳について語る部分がない。

二つの主題が遠すぎるのと削除部分が多すぎる。歌の主人公の立場や言いたいことが理解しずらいのだ。また詩集版から取り出されたのはさび部分だけ。


■ 襟裳岬を読み解く 


 
襟裳岬 / A_CUVE


 以上の構成を踏まえて、2曲を合わせてそして作り出された「襟裳岬」森進一版の歌詞について解説、考察する。


■ 難解な部分 解説 - 季節はいつ?

 
有珠山 / Kentaro Ohno


冒頭部分。
「北の街ではもう 悲しみを暖炉で燃やしはじめてるらしい」とある。普通に聴けば秋か初冬に感じる内容だ。これは原型の詩『焚火』そのままだ。この歌では悩みの解決が焚火であり季節には触れていない。

だが森進一版には、『襟裳岬』詩集版版からさびとして「襟裳の秋はなにもない秋です」という言葉から季節が”秋が春”に変更されて導入されている。

これも上の項目で述べた「襟裳の春は何もない春です」の部分がオチの前出し、リフレインなのを理解していると曲理解の手助けになる

曲が春になった理由;岡本まさみは一年の区切りを春と考えたからとの事。オチの項目で後述する。



■ 主人公の目的 

 歌詞の内容は人生に対する思いやアドバイスだ。

当時の曲に多かった人生指南のようだ。
構成は、他者に語り掛ける、そして悩みを持つものを迎え入れる内容だ。

■ 舞台での疑問 


 作中での舞台に関する謎。


■ 自分の正体や居場所は?

 
Coffee / MShades


歌『襟裳岬』が理解にしくい部分は、自分が誰かどこにいるのか明確に分からないこと。森進一版『襟裳岬』で歌詞中には襟裳岬の名前は登場しない。襟裳とあるだけだ。

歌詞の原型となる『焚火』では自分の居場所を示していない。コーヒーを飲んで語らったりしている。都会で喫茶店で離しているような内容にも取れる。

だが森進一版では「襟裳の春は何もない春です」と語るので襟裳が舞台と分かる。単純に受け取ると襟裳の喫茶店でコーヒー飲んでるような雰囲気だ。焚火をしながらコーヒーを飲むのに場所は余り限定されないだろう。そもそも焚火は比喩であり、暖炉は無いかもしれない。だが暖炉を前に悩みを話していると考えるほうが自然だ。

~ だがどれにしても、やはり場所や居場所がわかりにくい内容だ。 ただし読み解くと 人生の悩みや達観を語ることから、襟裳にいるもしくは滞在している人には受け取れる。


詩集版『襟裳岬』も同様だ。
襟裳岬の名前は登場しない。かろうじて”襟裳の民宿”という言葉が登場する。サビは”襟裳の秋はなにもない秋です”とあるだけだ。


■ 登場キャラクターに関する謎。



 各キャラクターの不可解な行動や最後について解説



■ 2番の君

 2番では”君”と呼ばれる人物とコーヒーを飲んでいる。2杯目なのでそこそこ長い時間だ。



■ 3番目の来訪者

曲の最期「寒い友達が訪ねて来たよ」とある。

1番や2番で ”他の街では悲しみを暖炉で燃やしたり、わずらわしさを捨てた君”が存在する。となると3番の来訪者はまだ悲しみやわずらわしさを抱えている人物だろう。


■ オチについて 


 大部分の人が分からないのがさびやオチだ。

サビの意味がなぜ分かりにくくなったのかの理由と、歌のオチを解説する。


●「襟裳岬(森進一版)」難解になった理由1 歌詞の短縮によるオチの欠落

 
Fire in the Fireplace / slgckgc


『焚火Ⅰ1』は、歌詞の3番が『襟裳岬 森進一版』より長い。これは制作の段階で冗長部分が吉田拓郎の指摘により削除されている。TVを揶揄する部分だ。

そして続編の『焚火Ⅱ』。 作りは焚火1のオチに当たるような内容だ。
焚火の理由が語られている。大まかに言えばわずわわしさや人間臭さを集めて炎に捨てるとある。

この部分が森進一版には無い。それゆえ森進一版は語り手がなぜ焚火の話をしているのか明確には分からないのだ。また『暖め合おう』というが、それが冒頭の暖炉で燃やすという行為につながるのかも明確ではない。


● 歌の構成

 1番や2番で他の人物と語り諭す自分。 曲の最後は新しい客を迎える内容になっている。
他者を迎え入れて、癒すような内容だ。

● さびとオチについて 「襟裳の春は何もない春です」

 
襟裳岬 / Nao Iizuka


 襟裳岬でやはりインパクトがあるのは「襟裳の春は何もない春です」という部分だろう。
私も初めて聞いた時に「良く分からないが凄いな」と感じた。理解できる出来ないではない。印象が強烈なのだ。

襟裳岬(森進一版)の内容は全体で人生について語られる。これに対するオチが「襟裳の春は何もない春です」だ。これは襟裳岬(詩集版)とはオチが異なる。

詩集版では「襟裳の秋はなにもない秋です」と語り「きみはわずらわしさを忘れ (中略)ぼくを想い浮かべ」とある。つまり手紙の宛先であるキミに、”都会の喧騒を忘れるように”襟裳を引き合いに出している。

 ・オチ1 原型 襟裳岬(詩集版)から読み解く

襟裳岬(詩集版)で「襟裳の秋は何もない秋です」の言いたいことは
襟裳岬には何もない=都会のわずらわしさはない。ということだ。都会の喧騒は無い、あて先の彼女がわずらわされるような物はないですよ。という意味だ。

これは引き算の美学だ。都会の人が田舎に憧れる言葉とほぼ同じだ。車が少ない=空気が綺麗、ビルが少ない=眺めが綺麗 など。今なら、ミニマリズムを褒めている場合に近い。 そして現在は地方がほめたたえられるのは当たり前になった。例えば日本最後の清流四万十川、仁淀ブルーなど。自然の美しさや都会との違いがほめたたえられる。地方を題材にした漫画や映画が作られて、ファンは舞台を聖地と称して巡礼する。

だが『襟裳岬』の制作は1974年。当時は高度経済成長期が終わった頃だ。地方の美しさを伝えるのは難しかったのではないか。

「襟裳岬(森進一版)」の歌詞「何もない」がバカにしたように取られるケースが多かった聞く。それは以上のような理由ではないか。

また歌詞で襟裳には都会のわずらわしさは何もない。ことをおおむね伝えている。
だが敢えて襟裳の良さを並べ立ててはいない。これも引き算の美学であり、聞き手の想像力にゆだねている部分だ。ゆえに受け手にとっては誤解されやすかったのだろう。


 ・オチ2 作詞家の解説

森進一版の歌詞では、岡本おさみさんの解説によると
「襟裳の春は何もない春です」は「日々の暮しはいやでも」と掛かる。また春がやってきて、年が変わって過ぎていくけど、その先は何も変わらない。暮らしなんて同じことの繰り返しという気持ちを述べた。とある。

またおなじく1997年岡本おさみが登場するNHK番組「そして歌は誕生した」のインタビューでまとめる。
ハードな生活をしていても「どうしている?」と質問されても「別に変わりないよ」応える、一年の変化は正月ではなく春だと考えている。だが本当の意味では変わらない。と答えている。

ここからは私の解説だ。
森進一版の「襟裳の春は何もない春です」は襟裳に物質的なもののあるなしを語ってるのではない。
岡本さんの言葉も、読み手によって解釈は異なるだろうが 何もないよ=変わりませんよ。と言うことだ。

なお変わらないことが達観なのか諦めなのか、単に問題提起なのかはは聞き手にゆだねられる。


 ■ 関連作品


  参考に、関連作品を紹介。


・ 焚火Ⅱ 

焚火Ⅱでは状況が明確にされている。
まず焚火をしているのは二人。そして焚火をする理由も書かれる。

・襟裳岬 詩集版

森進一版とは構成や主題が異なる。歌詞はラブレターであり手紙だ。
旅先から手紙を送る心情を描く。そして最後は告白に繋がる内容だ。


■ おまけ - 鑑賞法と聴きどころ 


 
my cup / Ema Yudistira


 作詞の岡本まさみさんは、森進一さんが歌自分のことを書いたと受け取ったことが作詞する者にとって最もうれしいとある。また作曲も好きな部分を選べばいいとある。

要は受け止める人が好きに感じればいいのだ。

 今回、襟裳岬の曲内容について調べた。
だが作詞家の言葉を転じれば、曲を受け取るあなたが好きに解釈すればいいと言えるだろう。


■  関連商品 


 『襟裳岬』が気になる方、「また聞きたい!」 あなたのために紹介。


■ 曲


 今作と関連作品を紹介する。


■ シングル

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 襟裳岬のシングル。

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襟裳岬 - 森 進一
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■ ベスト

襟裳岬を含むbベスト

・CD/森進一/森進一ベスト 〜歌手生活50周年記念盤〜 (歌詞付)

50周年ベスト。代表曲が並びます。
『冬のリヴィエラ』も入ってて、いいですね。







■ 書籍



・ビートルズが教えてくれた―岡本おさみ作品集と彼の仲間たちとの対談 (1973年)

ビートルズが教えてくれた―岡本おさみ作品集と彼の仲間たちとの対談 (1973年)
ビートルズが教えてくれた―岡本おさみ作品集と彼の仲間たちとの対談 (1973年)


・旅に唄あり 復刻新版/山陰中央新報社/岡本おさみ

 元は1977年発行の古い本だが、うれしいことに2022年に復刻した。






■ あとがき


 
Bonfire / ☺ Lee J Haywood


 北海道に憧れる人は多いのではないだろうか? 北海道を題材にした曲や映画、創作物は多い。
映画『幸せの黄色いハンカチ』。 バイクの北海道ツーリングブームを加速させた小説『振り返れば地平線』。わたしも北海道に憧れて旅する自分を空想した。その創作物の中でも『襟裳岬』は北への魅力をいざなう曲の代表格だろう。

『襟裳岬』は想像力を生む曲だ。
想像力を喚起する曲は多いが、襟裳岬はとても刺激する。

曲を聴いていると 焚火の光景や行ったことも無い襟裳の風景を想像する。
私は寒さが厳しくなり始めた秋に 襟裳岬の近くにある小屋で、暖炉を前にコーヒーを飲むのだ。

また行間が多い事から、主人公の思惑も想像する。そして自分の人生とも重ね合わせて思案に暮れるのだ。
そして自分の悩みやわずらわしさを焚火にくべる。

『襟裳岬』を聴くことで、旅と癒しを体験するのだ。


昨日、詩人であり作詞家の谷川俊太郎が亡くなられた。
ニュースで2011年のインタビューが流れていた。 谷川俊太郎は 文を簡潔にしており、そして「読み手の想像力を信じている」と語られていた。

『襟裳岬』も同様だろう。 
細かく解説するような歌ではない。

聴く人が描く世界があるのだ。



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■ 参考、関連サイト



■ 更新情報

2024年11月19日 作成

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