Amazonがオリジナルドラマ『CIA分析官 ジャック・ライアン』の新作を配信開始した。
今回はシーズン3全話を見た感想と、簡単なあらすじや見所を紹介。 ~ 若干ネタバレに近い解説を含むので、知りたくない方は見ちゃダメです。
■ トム・クランシー『CIA分析官 ジャック・ライアン』とは
原題は「Tom Clancy’s Jack Ryan」。 日本では11月21日からシーズン3の全話を一挙に配信開始した。アマゾン制作で、プライム会員は無料視聴が可能。
トムクランシーの小説が原作。ジャック・ライアンの主人公作品では、初のドラマシリーズ化が『CIA分析官 ジャック・ライアン』だ。今シーズンは全8話となる。
➤ トム・クランシー/CIA分析官 ジャック・ライアン
■ あらすじ [注意* 後半の展開やネタバレを含みます]
ドラマではジャック・ライアンがCIAで活躍し始めた頃からを描いている。今回シーズンはヨーロッパとロシアが主な舞台だ。
主人公ジャックはローマ支局に勤務する。 そしてロシア公司ゾーヤからソコル計画の情報を入手する。1960年代に中止された計画が再開していたのだ。
ジャックは危険を冒して証拠を追ううちに、リスクを恐れたCIA長官の指示で見捨てられた。ジャックらのCIAチームは全滅する。ジャックは指名手配されて逃亡者となる。アメリカやロシア、そして現地警察にも追われる状況だ。ローマ支局にはNSD(国家安全保障局)が送り込んだFBIによる捜査が始まり、後ろ盾も無くした。 さらにチェコ大統領と会っていたロシア国防相のポポフが暗殺される大事件が起きる。
● 中盤の展開 (話の重要部分や関係者の立場を含みます)
ソコル計画を追うジャックの前に、なんとロシアの諜報部の大物であるルカが現れる。ルカは協力者となり、ソコル計画が徐々に明らかになる。
ソコル計画はかってのソ連が計画していた「ライン川への7日間」と呼ばれる作戦から生れている。それはNATOを戦争に巻き込む内容だった。そしてソコル計画の鍵となるのは新型核兵器だ。ステルス性能を持つ小型核兵器だが、さらにもうひとつ秘密があった。 ソコル計画で戦争を誘発し、ソ連時代の栄光と領土を取り戻そうとしているのだ。
NATOを巻き込む巨大な陰謀に立ち向かうために、上司グーリア、元支局長ノベンバーも協力。そしてCIA支局長ライトや米外交官も極秘裏にジャック達の応援を開始した。
● 後半の展開 (話の重要部分や関係者の立場を含みます)
陰謀には、驚くことにチェコ大統領の父ペトル・レベデフや新しい国防相アレクセイ・ペトロフが関与していた。そしてジャックはコードネーム「クロスボウ」の存在を知る。
クロスボウは「ライン川への七日間」を改良、進展させた計画だ。
「ライン川への七日間」では想定されていなかった、アメリカとの戦争が予定されている。 ロシアでクーデターを起こし、ロシア大統領のスリコフを排除。そして海軍戦力を使って、アメリカとの開戦を狙うのだ。
アメリカ側では、ロシア側の予定どおりの反応をしていた。ロシア側の戦闘配置に対して、アメリカも応戦準備に入っていた。 CIA支局長ライトも、CIA長官に従わないために解任された。だがグーリアにより、米将軍の協力を得た。 ライトは、応戦方針にあるアメリカ側の対応を変えようと奮闘する。
クロスボウは実行段階にあった。そしてルカの知人であり元スペツナズのローラン・アントノフが関わっていた。クロスボウの為に、ローラン・アントノフは米側の軍人を調べ上げていた。アメリカの応戦意欲や規則を利用して、戦争に引きずり込む手順だった。 国防相アレクセイ・ペトロフは、ローラン・アントノフが艦長である軍艦フィアレスを米艦艇が待ち受ける海域へ、大統領の許可なしに派遣していた。
ロシアとアメリカが激突するときが近づく。ジャックは戦争回避のために奔走する。
■ 全話を見た感想
Kremlin / larrywkoester
かなり面白い。
私としては、ドラマ『CIA分析官 ジャック・ライアン』の中で一番。さらに映像版で映画を含むジャックライアンシリーズでもトップクラスの面白さだった。
3年前にシーズン2の記事で私は酷評した。かなりストーリー部分の仕掛けや展開が不自然で、シーズン1より大きくパワーダウンしていたからだ。ロケやセットが豪華で見るには耐えるが、話の骨格や登場人物の心情が理解しがたい。 だがシーズン3では、1と2での不満点が消えた。TVドラマとして高い完成度になっている。
Kiev, Ukraine / VasenkaPhotography
・シーズン3は、ウクライナ侵攻と関連するような題材
現実では、ご存じのように昨年からウクライナへロシアによる大規模侵攻が起きた。 ジャックライアンの今シーズンは、敢えてロシアに関するストーリーを選んだ。なかなか果敢な挑戦だ。 作中での陰謀や戦略のディテールは、現実とかなり違うように思える。だが、偽旗作戦や上層部のロシアに対する愛国心ゆえの暴走など。現在のウクライナ情勢の視点を考えるような素材があるのが興味深い。
Kiev Ukraine / Travelbusy.com
■ 作品の要素毎の解説。
シーズン3の構成や魅力を紹介する。
● 話作り、構成について
Container / sabishiiseishun
話の構成では、ロシアの新兵器が前半の謎になる。
小さな謎を追ううちに、話が国家規模から戦争の予兆へと大きくなっていく。ジャックが戦争回避のために、コードネーム「クロスボウ」の全容と陰謀の関係者を暴く展開となる。繋がりが良い上に、徐々に陰謀の状況と問題が拡大する。非常に構成がよくできている。
・強化されたドラマ部分
今までのシーズンでは弱かったドラマ部分が補強された。
主軸となるのは、1960年代に始まったソ連時代のソコル計画に関わったメンバー達の因縁が見どころだ。ロシア軍部のメンバーは、ソコル研究者たちを殺害した。あるメンバーは殺害を実行したことを後悔している。また殺害を拒否したメンバーは逃亡者となった。
サイドストーリーの完成度も上がった。今作も、米TVドラマで多い「平行に複数人物の話が進む構成」だ。 シーズン1からおなじみのメンバーであるグーリアやシーズン2で活躍したノベンバー。 そして今シーズンから登場したローマCIA支局長のライト、ロシアの大物スパイであるルカが絡む。 信念が強くて実力も癖もある連中が、見応えのあるストーリーを展開する。 今までのシーズンでは、米国の映画やドラマで多い家族愛の部分で描き方が下手で単なるノイズになっていた。だがシーズン3ではチェコ大統領親子で主に描いている。多数のメンバーで描かれることは無く整理されており好印象を受けた。
NATO flags / byzantiumbooks
・巨大な陰謀とジャックの活躍。
軸となる陰謀では新兵器やNATOとの対立などの素材が良い。さらに各人物の動機や背景の説明も丁寧で、感情移入しやすく興味を惹く。さらに肝心のジャックが主導のストーリー部分が面白い。CIAから見捨てられ孤立無援のジャックが、かっての仲間達に助けられながら困難をすり抜ける。 少数精鋭で真相に近づく展開は実に痛快だ。
また展開で、強引な部分が大きく減った。徐々に展開がエスカレートする見事な構成だ。 シーズン1や2では、軍事面やキャラの行動でおかしい、時には破たんしている場合も見受けられた。だが今シーズンではジャックの直感による行動が危機を解決していく見事な展開だ。
・話の核となる謎解きの部分が魅力。戦争を生むソコル計画とクロスボウとは。
序盤は1960年代のソコル計画と開発されていた新兵器に興味が湧いた。ジャックはソコル計画の謎を追うが、証人が殺害されて、冤罪で追跡される。 定番どおりと言えるだが盛り上がる展開だ。
まだ大きな仕掛けが有るかと期待して視聴していたが、良い意味で期待を上回る展開だった。中盤でソコルの内容や関係者の立場や目的が明らかになった次は、ロシア側の陰謀勢力による新たな計画「クロスボウ」に繋がっていくのも上手い。チェコやNATOを巻き込む展開から、さらにアメリカとロシアの直接戦闘を招く状況となるのだ。
USS Theodore Roosevelt (CVN 71) Deployment FY 2018 / SurfaceWarriors
・ジャックの仲間たちの活躍
CIAのエージェントであるライアンが、ロシアやアメリカのメンバーから信頼を受け協力者を呼ぶ好循環となる。徐々に大きな難局や問題に遭遇するが、パワーアップして突破していくのは非常に心地よい。
巨大な謎の操作や大統領などの大物の説得は別メンバーに任したのも、話の整理に貢献している。 チェコ大統領アレナ・コヴァチが、CIA側のグーリアやノベンバーと共にロシアに乗り込んで説得する。一方でローマ支局長のライトはCIAやアメリカ側の説得を担う。 今までのシーズンでは、ジャックがほとんどの謎を解く展開で無理があった。だが今シーズンでは、ジャックが前線での困難解決を担当しており、行動が自然になった。
かってソ連が開発していた新兵器という面白くなりそうな素材を扱って、さらに新たな陰謀や謎を作った上に展開もスムーズ。見事なシーズンだった。
Strēlniekiem 100 / Janitors
● 不自然な部分
第3シーズンは面白いが完ぺきではない。陰謀の規模が大きくてややムリがでた。その歪みが出たのが、チェコ大統領アレナの主任護衛官ラデックだ。
まず、大統領の側近がロシア国防相の暗殺を直接行っていたのが無理がある。
さらに中盤ではCIAに家族を拉致されて、パニックを起こして大統領を誘拐する。 かなり無理がある展開だし、話が大きくずれてしまった。 無理に中盤を盛り上げようとして、変な行動になった印象だ。 ~ ラデックの信念が余り解説されなかったのが惜しいところだ。
■ キャラクター
登場人物の魅力を振り返る。
・ライアンが今シーズンでかなり魅力あるキャラとなった。
このドラマシリーズでのジャックは、あまり活躍をしていない。特に第2シーズンは酷かった、自己中心的であり単独暴走して仲間や他国機関に迷惑かける。最後はコネを使い米の軍事力で押し切る。 前半には役立たずなのに終盤でスーパーヒーローとなるなど破たんしていた
シーズン3の序盤でもローマ支局長にジャックは問題児扱いされており、元支局長のノベンバーもジャックの心配をしていた。 だがシーズン3でのジャックは的確かつ大胆な行動を見せた。孤立無援でも謎を追い、そして周りの信頼も得る愛されキャラになった。
・魅力ある仲間達
まわりの登場人物も魅力がある。シーズン1ではわき役やゲストに魅力ある人物が多かったが、今回も短い登場のキャラでも上手く魅力を見せた。
ローマ支局長のライトは今回は主にジャックをサポートする重要な役を担った。冷酷に見えるが、ジャックの行動を評価しているという頼もしい上司だ。上司のグーリアはすっかり相棒やバックアップとして確立した。またもや食生活や嗜好を変化させているお約束も見られた。元CIAベネズエラ支局長のノーベンバーも楽しい。シーズン2で登場して魅力があったが、シーズン3では大きく出番が増えた。 ムチャなジャック達を、ぼやきながらもずっと助けるのは、まるで「ルパン三世」の次元大介のようで面白い。
またシーズン1と2で気になった部分が解消された。視聴者の目を引く対象である女性の描き方が上手くなった。チェコ大統領の頑張りには好感が持てるし、ロシア国防相ポポフの未亡人の活躍は実にスマートだ。そしてドラマ版ライアンシリーズの脚本家が苦手と思われる、女性との恋愛関係や子どもに関するエピソードやシーンがばっさり切り捨てられているのも潔い。
・手ごわい敵勢力や協力者たち
登場キャラを雑に扱わずに、活躍するのも良い。登場が短いキャラもしっかり扱われる。序盤に逃亡中のライアンをかばう男トニーや、終盤のロシア駆逐艦の副館長の心変わりなどが見事だ。 敵側も単なる悪には終わっていない。自分の苦しみや信念を吐露して、反乱や行動の意見を述べる。
■ 作品の終盤 オチやクライマックス (ネタバレ含む)
終盤はCIAのジャックとロシア諜報部の大物ルカが協力する。
ルカはロシア軍艦フィアレスに乗り込む。そしてジャックは米海軍の駆逐艦ルーズベルトに乗り込む展開だ。
ロシア諜報部の重鎮であるルカが最前線に行くのも、盛り上がる展開だ。 そして単なるCIAエージェントのライアンが、軍を制止しようと乗り込むのも面白い。映画『レッド・オクトーバーを追え!』を彷彿される。
双方の戦争回避の方法も非常によい。 肩書や上司に頼らずに、自分の信念で説得したからだ。ロシアのルカは、暴走する反乱者に国を守ることを説く。かって上層部に従い、ソコル計画の研究者を虐殺をしてしまったルカの言葉には重みがある。 ジャックは国民を守る為になら、米軍や自分を犠牲にしても構わないと言い切る。こちらはまだ若いジャックの真っすぐさと清廉さが魅力だ。
ジャック達とルカが持つ国や人を守るという信念と、国を維持する為に武力を指示する勢力が激突するのだ。 強い国である為に、相手を攻撃するのがロシア反乱軍と米軍の論理だ。 だがルカとジャックは違う。一部の人間が招いた破局へ至る誤解を解こうとする。
最終話では、ロシア側からの攻撃も開始されて、米側が対抗する。世界大戦がはじまりかねない状況となる。
新兵器や上層部の判断によって、問題が安直に解決されるのではない。ジャックやルカの信念と信頼が、ひとつづつ難局を解決する展開は見事だった。
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■ エピローグ ~ 新旧エージェントの交代劇。
ジャックとロシア諜報部のルカは、戦争を回避した。
ジャックとグーリアは勲章を授与される。 だがロシアで、ルカは連行される。整頓された部屋を見渡すと、怯える若い青年を諭して自ら投降した。
連行されながら、自分の生涯と信念をジャックに語るような独白が続く。 見事な終わり方となった。ルカのその後は描かれていない。幽閉かそれとも処刑されたかは謎だ。だがルカは戦争回避のために活躍した。国のためにと信じて、上層部の命令に従って殺戮した過去を悔やんで生きた。国を守る為に人生を捧げている。
シーズン3は、老兵ルカと新世代ジャックへの伝達や交代劇のようだ。 諜報部が破壊工作や陰謀への加担だけではなく、戦争の抑止や政権の安定。国の安全にかかわる正しい側面を見せた。
Kremlin / larrywkoester
■ 総評とこれからへの期待
RBG Containers / Matt Henry photos
総評 74点。
観終わった感想は「かなり面白い」
全体にシーズン1~2での悪いところが消えた。CIAのレベルが低い、話が脱線して枝葉が増える、各キャラのドラマが弱い、ご都合主義など。
『CIA分析官 ジャック・ライアン』のシーズン3は、話の仕掛けや内容の濃さからすれば10~12話くらいまでは引っ張れそうな内容だった。だが8話にぎゅっと長さを抑えており、やや短めに感じる絶妙な話数だった。
映像の派手さは大分抑えられたが、ストーリーは盛り上がった。 何より、キャラに魅力がある。 巨大な陰謀の中でCIAですら太刀打ちできない。そのなかでジャックが仲間を引き寄せて問題を解決していくのは非常に面白い。
私はシーズン2でかなり落胆していた。だが3が面白くなったのが嬉しい。そしてシリーズ最後となるがシーズン4の制作が決まっているようでかなり楽しみだ。 プライム会員で良かったと感じる作品だ。Amazonが今後も良作を生み出すのを期待する。
■ 作品リンク
• CIA分析官 ジャック・ライアン
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ジャックが使うハミルトンの腕時計。劇中で結構目立つので気になる存在です。全体が黒のクロノ、ラバーストラップで精悍な印象。。
■ ジャックライアンとは
ジャック・ライアンシリーズは80年代に原作小説が発表された。軍事シミュレーションを扱う小説の先駆けとなる。政治や国家の問題を上手く組み込み話題となる。
「レッド・オクトーバーを追え!」、「パトリオット・ゲーム」、「今そこにある危機」、「エージェント : ライアン」などのジャック・ライアンシリーズ最新作が『CIA分析官 ジャック・ライアン』。
■ 公式動画
■ 更新情報
2023年1月16日(月) 作成
■ 参考、関連リンク
• Amazonプライムビデオ
> トム・クランシー/CIA分析官 ジャック・ライアン
・ ハミルトン 『トム・クランシー/CIA分析官 ジャック・ライアン』シーズン2が、ハミルトンの時計とともに帰ってくる!
参考: Amazonプライム