ドラマ『孫子兵法』を全話見た感想と、あらすじや見所紹介

  

  今回はドラマ『孫子兵法』の解説。
全話見た感想と、簡単なあらすじや見所を紹介。


若干ネタバレに近い解説も含むので、知りたくない方は見ちゃダメです。


 ■ 『孫子兵法』とは

原題は「兵聖」 
2009年12月から常徳市で放送された。中国のTVドラマで全41話。

孫武の人生を描く。なお孫子とは、孫武の尊称だ。
主演は朱亜文(チュウ・ヤーウェン)

 > プライムビデオ 『孫子兵法』


 ■ あらすじ

  

中国は春秋時代。兵法書「孫子」を書いたとされる孫武の人生を描く。

序盤の場所は斉。 孫武は隣国との戦いへの参加、そして家族間の争いが主体となる。

孫武が呉国に移ってからは、将軍として活躍する。宰相の伍子胥(ごししょ)と共に、兵力の強化と隣国との戦いを行う晩年までが描かれる。主な軸は内外での争いだ。隣国との戦い。そして呉の王達や重臣との内紛となる。そのなかで孫武の采配や行動が見所となる。


■ 全話を見た感想 

  

 前半は面白かった。  
20話まではかなりテンションも高く,展開も早い。戦闘シーンも多くて夢中になって見た。

ただし20話以降は失速する。
権力争いや謀略が続くが、孫武側が押される場合が多く、爽快感が大きく減った。

全体では、娯楽性が高くて楽しめる作品だった。
難点は、古い作品なので映像や展開がやや粗い印象だ。例えばCGが荒くて違和感がある。合戦シーンなどがPS2くらいの映像だ。



 ■ 作品の要素毎の解説。

 tv-2223047_960_720.png

 『孫子兵法』の見どころを紹介する。


 ■ 話作り、構成について

  

 作品の雰囲気だが、誰でも楽しめる作りだ。
善悪がはっきりしており、キャラクターの行動も明確だ。中国の歴史に疎くても理解できる親切な展開だ。

主人公である孫武は、有名な人物だが謎も多い。今作では、孫子をヒーローとして扱う。内容だが退屈にならない展開だ。孫武や国の行方に集中している。恋愛や脇キャラの生い立ちなどをバッサリと排除している。

また娯楽面では戦闘シーンが多くて動きが多い。日本の大河ドラマがキャストに力を入れるだけで作品そのものが会話ばかりで退屈なのとは大きな差がある。



 ■ 展開

  

 話の軸は、主人公である孫武の人生だ。
ドラマは二つある。隣国との争い、そして国内の問題解決だ。

まず孫武の軸。軍師としての成功が目標だ。隣国を攻めるにあたり国内の武力強化をおこなう。そして戦時では戦略指揮が主体。 王族や重臣たちによる暗殺と冤罪、謀略を避ける。そして先読みしての他国攻略が見どころだ。 恋愛や友情での葛藤も有るが、良識があり安定している。 また孫武は内紛や戦況を俯瞰して行動する為に、トラブルを回避。そして勝利していく。安心して見れるヒーローだ。

惜しい面もある。 史実に沿わせるため、各キャラの行動が暴走気味になったり突飛な場合が多い。 展開が不安定な部分が悪いのだ。 重要なキャラが突然暗殺されたり、伏線無しに翻意したりと驚くエピソードも多い。だが中国史を知るのと意外性の面では良かった。



 ■ 構成
  

史実をベースとした創作部分が多いが、展開が面白い。
良い意味で荒っぽくパワフルだ。合戦やアクションの分量が多くて興味を引く。日本の大河がかなり劣っていると感じた。

ありえないような巨大兵器や大量の兵が激突するなど、まるで『ロードオブザリング』だ。また忍者がいたり、ゲームキャラのような甲冑や兵器が有ったりとやや破天荒な部分もあるが、制作側の娯楽性を高める意気込みが凄い。

正直なところ、日本の時代劇や大河が貧相なので「孫子兵法」の娯楽性を高める制作の勢いはうらやましい限りだ。



■ キャラクター

  

 魅力有る人物たち多い。
良い人と悪人がはっきりしており、分かりやすい。

見た目では、服装が綺麗だ。また女性陣が綺麗。惜しいのは、女性陣がストーリーに影響を与え無いので添え物の印象が強い。

わき役は魅力がある。演技のレベルも高い。またどのキャラも長く登場するので、各キャラに愛着がわく。孫武と共にする力持ちで心配性の黥豺(けいざい)、飄々とした歌人の虞夢など楽しいキャラが目を惹く。

残念な部分もある。スッキリしない展開が多いのだ。それは史実に沿わせるたに悪側が強くて、良い人がほんろうされる。例えば各国の王の堕落。国家間や家同士の諜報や謀略。呉の重臣の暗躍など。

 ● 対抗勢力

 

 悪役は残念ながらイマイチだ。
堕落する王や金銭欲の強い重臣など。どのキャラも良く似合っていた。若くして堕落していく楚昭王。こずるい伯嚭や費無極など。役者の演技自体は良いが脚本や演出が悪い。信念や道徳がないので単なる不愉快な人物であり、観ていてストレスがたまる。

悪である理由が生い立ちや環境で説明されていない。私利私欲で行動して、またしつこく生き延びて成敗されない。ストーリーを水増しさせるために、単に悪側として不愉快キャラを設定しているだけだ。



■ 印象に残る・感動したシーン

・17話「背水の陣」 

   

将軍役をはく奪された沈尹戌と息子の沈子成は、孫武たちの前に立ちはだかる。呉軍の猛攻撃に立ち向かい、弁慶の立往生のように沈親子が絶命する姿は圧巻だ。


■ 謎解きと解説


 不可解な部分とオチやラストシーンの解説。 ネタバレと謎やオチ解説なので知りたくない方は見ちゃダメ。


■ キャラ解説

 主要人物を紹介する。

  

孫武: 歴史上で有名だが、謎が多い人物だ。史実では、柏挙の戦い後に闔閭が亡くなる。そして孫武たちが越に勝利するが、その後は記録が無い。 

「孫子兵法」では、孫武の柏挙の戦い後の人生や晩年も描かれている。


国無咎(こくむきゅう):創作の人物。復讐心が不幸を招くという設定で、孫武や伍子胥に対する暗黒面のような存在だ。俳優は、目が大きくなったイ・ソジンのような雰囲気だ。


  
高紫蘇:架空の人物。三角関係や敵の娘であるなど、ヒロインの素質は十分だった。国無咎と添い遂げる。

  
伍子胥(ごししょ): 実在の人物。作品では、楚の軍人時代に既に孫武と会っていると脚色された。

歴史では”死屍に鞭打つ”のエピソードが有名な人物だ。『孫子兵法』では、漁師が伍子胥を助けた際に褒美を取らない痛快なエピソードも盛り込まれた。

豺(けいざい):創作の人物。 真っすぐで力もち。安心できるキャラだ。

翟芊(たくせん):架空のキャラ。後半のヒロインとなった。終盤で出自が明らかとなり、驚く展開となる。

   
干将と莫耶: 名剣の製作者。高い技術を持つが、政治に翻弄される。

欧冶子(おうやし): 刀匠のおじいちゃん。古代中国の刀鋳造の創始者。越、楚、呉など各国王の剣を多く鍛造した。鉄を切ったり岩をも砕く剣を作った。 伍子胥の持っていた剣(七星龍淵劍)や呉王を殺害した魚腸刀も作った。欧冶子の剣は、首都を包囲する敵軍を気で一掃したなど。神話やRPGの世界を具現する凄いじーさんだ。


■ エピソード解説 

 
  clapperboard-146180_960_720.png

 エピソード毎の謎や説明不足な面を解説。 時間順に紹介。


・穹窿山 

ドラマ内で孫子が隠遁生活をしている山。まるで仙人のようなイメージだ。
実在する山で、江蘇省蘇州で最も高い。孫子が棲んで「孫子」を書いたとされる。




・ 刀匠のエピソード

  

後半で大事な要素になるのが、武器の調達と開発だ。
そのために刀鍛冶が鍵となるが、名剣を作る為に驚く展開となる。30話「伝説の刀匠」では、王達の陰謀で刀匠が犠牲になる。見るとトラウマになるエピソードだ。

だが伝承では、欧冶子が炉に入れられたという話は無い。 似た話では、干将と莫耶は剣の完成が遅れたので王によって殺された、復讐の為子供が犠牲になったなど残酷なものが残っている。また『呉越春秋』での剣の製造の記述を、莫耶自身が炉に身を投じたと解釈される場合もある。身を投じたのは創作と言われている。 「孫子兵法」の作中では、干将と莫耶に関する残酷な伝承から刀匠の殺害を創作したと思われる。

エピソードでは武器に関して、軍装開発と王剣制作と二つの話が絡んでおり、やや混乱と破たんしている。


■ ラスト


 

 最終話。キャラとやや分かりにくいオチを解説。

史実で孫武の最期は謎だ。王に殺害されたともいわれる。
ドラマでも暗殺説を採用しているが、痛快にアレンジされた。後半は報われることが少なかった孫武たちだが、子どもたちと友人を連れて故郷へ向かう。視聴者が喜ぶ、楽しいエンディングだ。

 ● ラストシーン

ラストで、孫武たちは船で呉の國を後にする。孫武は船上から、岸に残る呉の王と奸臣に忠告する。
「戦いでは、仁義を元に行う。そして政治は民を考える。そして徳を重んじて小人を遠ざける。正義を貫くように」 孫子兵法の大事な部分で有り、ドラマでも孫武が一貫して示した信念だ。 最後にもう一回唱えることで、作品のテーマを強調している。


・ 孫家族はどうなった? 

作中での孫家族は、孫武が生まれた斉へ向かう。作品序盤で、孫武の祖父が「成功したら帰ってこい」の言葉に従ったわけだ。生きてるうちは斉へ帰らないと強がっていた孫武だが、最後は祖父の願いを叶えた。また孫武の親友である国無咎と、青年時代孫武の恋人でもあった紫蘇の子供が国に帰ることを成功させた。

史実での孫臏(そんぴん)に繋がる展開だ。孫臏は斉の軍師であり、孫臏兵法を作ったとされる。


■ その後 ~ 國や登場人物の行方。


 作中では触れられない、その後。


● 呉の国、その後はどうなった?

作品で呉国の後は描かれていない。 歴史から紹介する。

呉は越によって滅ぼされる。敵対していた越もやがて楚によって滅ぼされる。 

余談だが、倭人が「呉の太伯(句呉を建国した君主)の子孫」とされる伝説もある。



■ 人物

 主要人物のその後。歴史を紹介する。

・伍子胥: 越を警戒して国力浪費を心配する。それゆえ覇者となろうとする夫差との間に軋轢が生じる。そして伯嚭による讒言で、夫差の命により自害する。

  
・夫差:後に他国へ侵略するが、やがて越に脅かされる。そして山に逃げて、かって自分が侮った勾践と同じ状態になる。勾践は呉の説得により夫差を島流しで許そうとする。しかし夫差は、伍子胥に謝りながら自害する。

  
・越の王勾践:伯嚭が夫差を説得して、王勾践は越に帰ることを許される。越の滅亡に成功するが、その後勾践は讒言に惑わされ始める。重臣の范蠡は去り、勾践は文種を自殺させる。そして越も衰退していく。

・伯嚭:勾践によって処刑される。



■ その他 ~ 他作品との関連性


 残念ながら、今作「孫子兵法」からのキャラが重複するシリーズやスピンアウトした様な作品は未だない。

孫子を扱った作品を紹介する。


・孫子《兵法》大伝 :2010年の中国テレビドラマ。孫武を扱う作品。35話。

 日本でもWOWWOWで放送された。
 https://www.wowow.co.jp/drama/sonshi/

 レンタルやDVDで発売されている。VODでの配信はないようだ。


・「鬼谷子-聖なる謀-」。2016年の中国のテレビドラマ。

全52話。孫臏の師と呼ばれ、算命学を生み出した鬼谷子の人生を描く。
冒頭から孫子兵法が重要なアイテムとして登場する。

私は10話ほど見た。主要キャラに信念が無くて、面白みを感じなかっため視聴を中断した。長編ものでありがちな、ドラマ作りが優先されており、安直に陰謀や駆け引きが主体だ。

キャラがおざなりになっている印象を受け、視聴が苦痛になった。
まず主要キャラに魅力が無い。気が強いヒロイン、主人公に執着する別国の王女。テンプレ感が強い。主人公が身分の低いものが、暴君の犠牲になるのを見捨てる、暴虐に対して行動やコメントもしないなど。人間味が無くて見る気が起きなかった。
『花の慶次』の前田慶次のような、一見うつけものだが芯のある人物を作りたいのだろうが、「鬼谷子-聖なる謀-」は失敗している印象だ。



 ■ ロケ地

孫子兵法は、涿州影视城や横店映画村(横店影視城)などでも撮影。

孫武が済んで兵法を書いたと言われる、穹窿山でも撮影された。



 ■ 『孫子兵法』の長短所

 ● 良いところ
・ 前半は展開が早い。
・ 恋愛要素が少なくて話がシンプル。
・ アダルトなシーンが無いので家族で見られる。
・ お金が掛かってる。映画並みのセットやアクション。

 ● 気になる点
・後半はやや退屈。
・キャラが多くて名前が覚えにくい。
・史実に合わせるために不整合な展開や説明不足なキャラの動きが多い。


■ 勉強になったところ

人は位が上がると、堕落の道へ落ちやすい。奸臣も増えて讒言に惑わされやすくなる。




■ 総評とこれからへの期待

 総評 70点。 

私は孫子に興味があり、気楽に「孫子兵法」を見始めた。だが展開やキャラの魅力に引き込まれて、結局は全話観ました。

観終わった感想だが、後半が疲労感があったものの、全体では学ぶ部分が多い作品だ。 ~現在でも人気が高い孫子兵法を上手く取り込み、ドラマに仕上げている。

史実がベースとなるため無理が出る部分が多いが、娯楽性が高くて楽しめる作品だ。長編だが見て良かったと感じた。



■ 関連用品

 

 ■ 映像作品


clapperboard-146180_960_720.png

 ドラマ「孫子兵法」に関わる製品。


■ 作品リンク

 • プライムビデオ 『孫子兵法』



■ 販売作品

 DVD-BOX化されている。ブルーレイは未発売。






■ 音楽作品


 サントラ等の発売は無いようだ。


■ 更新情報

2022年4月11日 作成

■ 参考、関連リンク

• Amazonプライムビデオ
  > プライムビデオ 『孫子兵法』


参考: Amazonプライム
amz prim [logo] WS2016000535.JPG

この記事へのトラックバック