今回紹介するのは、映画『クール・ランニング』
オリンピックを扱うスポーツ物では、珍しく楽しい雰囲気を持つお勧めの作品です。実話を元にしており、映画との相違が気になる人も多いでしょう。
今回は『クール・ランニング』の分かりにくい部分や事実。オチやラストシーンの解説。
■ はじめに 『クール・ランニング』とは
クール・ランニング(原題;Cool Runnings)は 1993年公開のアメリカ映画。
タイトル「クールランニング」は、作中で使われるボブスレーのそりに付けたあだ名。旅の幸運を祈る言葉だ。
1988年の冬季カルガリーオリンピックで、ジャマイカのボブスレーチームが挑んだ実話をもとに描く。古い映画だが、作品の展開が早くてテンポも良い。今でも十分楽しめる作品だ。
個性豊かなメンバー達が、癖のあるコーチに率いられて勝利を目指す。「がんばれベアーズ」等から連なる、楽しいスポ根ものパターンを踏襲している。
● スタッフやキャスト
監督はジョン・タートルトーブ。「ナショナルトレジャー」や「フロム・ジ・アース/人類、月に立つ 」等、幅広いジャンルを手掛ける。
俳優ではジョン・キャンディが登場しており、生前公開では最後の作品になった。
音楽はハンス・ジマー。「バックドラフト」「ダヴィンチコード」などの荘厳な音楽、「ブラックレイン」「ラストサムライ」のような地域に合わせた曲調の音楽づくりも得意な作家だ。「クールランニング」でも楽しいラテンの雰囲気を織り交ぜた音楽づくりに成功している。
■ 映画のあらすじ
Canada Olympic Park, Calgary / Scarlet Sappho
映画のジャンルは、スポーツ&コメディ。
主人公デリースは短距離選手。しかしオリンピック予選の100メートル競技で転倒に巻き込まれて、落選。 落胆するデリース。だがある日委員会室で、自分の父がアービングと言う金メダリストからボブスレーに誘われていたと聞く。そして自分もボブスレーでオリンピックに出ることを思いつく。
デリースはアービングを説得して、メンバーを集める。親友で手押し車レースが得意なサンカが手伝う。そして集まったのは、なんと100メートル競技でデリースと一緒に落選したユル、ジュニアだった。
南国のメンバーが冬季オリンピック参加を目指す挑戦が始まった。
主人公デリースは金メダリストである父に憧れている。しかしかたくなで融通が利かない。ジュニアは後継者として、父の期待が重圧となっていいる。ユルは強烈な上昇志向ゆえ周りと衝突する。そしてコーチのアービングも、オリンピックで不正をした暗い過去を持っていた。
問題を抱えるメンバー達が、ボブスレーに挑む上でぶつかり合い、困難を乗り越えて成長していくのが見どころ。
■ 謎解きと解説
jamaica / @joefoodie
部分を解説。
また実話との比較も入れています。
~推測部分は注釈を入れて解説。
● 人名について
主人公 = デリース・バノック。短距離選手。性格は生真面目。
サンカ・コフィ = デリースの幼馴染。明るい性格でメンバーを上手く後押しする。
ジュニア・バヴェル = お金持ちの息子。父の期待に悩んでいる。
ユル・ブレナー = 野心家。
アービング・ブリッツァー = ジャマイカボブスレーチームのコーチ。元金メダリスト。
■ エピソードと解説
Jamaica / 3.26
エピソード毎に解説。 謎は時間順に紹介。
■ はじまり
Bobsleeën, vijfmansbob / Bobsleigh / Nationaal Archief
映画では短期間で素人のメンバーがオリンピックに挑む。一見無理やりに見えるが、大筋は実話と同じです。
実際は、ジャマイカでアメリカのビジネスマンがボブスレーの代表を立案。メンバーを集める。なんとオリンピックの半年前だった。*1
■ メンバーについて
Men's 100m - Anniversary Games London / Mark Wordy
映画でのボブスレー参加メンバーは架空。
ボブスレーでは、スタートダッシュがタイムを大きく左右する。短距離選手が3人もいるのは、短期間で好成績を出せる可能性がある。また手押し車のレース強豪を使うのも、見事なアイデアだ。
実際のジャマイカチームでは、ボブスレーの操縦士にヘリパイロットを含めた軍人が選ばれている。
また、ジャマイカでプッシュカートダービーは実際に行われている。ホームストレッチでは時速60マイル(約97キロ)も出る豪快なレースだ。
■ ボブスレー
C7 Winterberg trip : bobsleds / Frenkieb
ボブスレーは「そり」のこと。そりの名前自体が競技名になっている。ボブスレーで、そりの最高速度は130Kmを超え、「氷上のF1」とも例えられる競技だ。
ボブスレーはスイスが発祥。作品でもスイスチームは主人公の憧れの的となった。オリンピックでは第一回冬季大会から正式種目。
ボブスレーの構造はシンプルだ。鉄製のシャーシに、FRPのカバーが被せられる。刃が4枚付いており、前方の刃は舵となりドライバーが操作できる。ブレーキもついているが、ゴールまで使用できない。
■ 舞台
Calgary, Canada 1988 / NASA Goddard Photo and Video
1988年のカルガリーオリンピック。
カナダのカルガリーで開催された。 日本のフィギュア選手で伊藤みどりが高難度技を披露して話題となった。
東西冷戦の中で、まだ各国の対立が激しかった時代だ。映画でもジャマイカチームを侮辱する人物が多く存在する。
なお1988年の冬季オリンピックの時代にはソ連と東ドイツ、ついでスイスが強豪だった。
■ 機体
Jamaican Bobsled Team / nateOne
映画では、コーチがアメリカチームの友人に頼み込み、中古のそりを手に入れる。
実際には、チーム代表メンバーの大佐がカナダ代表に交渉。中古のそりを借りている。*1
■ 成長
Bobsleigh / remysharp
オリンピック委員会は、かって不正を働いたアービングを目の敵にして、通過タイムを変更するなど執拗に圧力を掛ける。
あげくはジャマイカチームが出場できないようにルールを改正する、ジャマイカは国際大会での経験が無いので、参加資格が取れないように圧力を掛けるのだ。
アービングは運営の会議に乗り込み、直談判をする。自分はかって不正を働いた。勝利を追い求めてオリンピックに参加する意義を見失ったから。オリンピック委員会にかってのアービングのような勝利だけで手段を択ばない、不正を働くような「同じ過ちを繰り返さないでくれ」と訴える。そしてオリンピックに夢を掛けるジャマイカチームのメンバー達を責めるなと。
そう、かってのアービングと今の委員会は勝利だけにこだわっていた。だがアービングは成長し、委員会のメンバーも道を外れていたことに気づいた。成長したのだ。
■ 転機
Toy Bobsledding / happyworker
デリースはスイスチームに憧れて、勝利にこだわる。しかし成績は伸びず、メンバーとも不和になる。
衝突するデリーズとサンカ。デリーズは「ベストを尽くしたい」と言う。それに対し親友サンカは「ジャマイカ人であることがベストだ」と諭す。
デリースは金メダリストである父に憧れて、勝利を求めていたが強豪スイスの真似に執着していた。~いつの間にか自分を見失っていたのだ。サンカの言葉で自分の思い違いに気づき、2日目に挑む。
■ 滑走
olympics-winners-circle_jamaican-bobsled / Oldmaison
2日目の滑走。メンバーは前日とは変わった。明るくスタートラインに向かっていく。
滑走シーンでは、メンバーのセリフや独白は無い。それゆえ臨場感が高まっている。観客は一緒に乗っている、もしくはコースサイドにいるような雰囲気を味わえるのだ。
3日目のタイムアタック。見事なスタートを切り、コースを駆け抜けていく。
まるでF1のようにコースを駆け抜けていく、見事な編集だ。そしてハンス・ジマーの音楽が盛り上げる。
■ 事故
映画では、実際の事故映像も使われている。
ジャマイカチームのそりはコントロールを失い激しくクラッシュする。ジャマイカチームのそりは横転したままコースを滑っていく。停止寸前でメンバーがヘルメットをコースにこすりつけている映像も実際の映像だ。
転倒原因は、映画のようなそりの故障によるアクシデントではない。実際にはコントロールを失っての転倒だった。
作品では、ドライバーが操作する前方の舵へ繋がるリンクのボルトが外れて、コントロールを失った。
■ ゴールへ
作品では、メンバーがボブスレーを担いでフィニッシュラインへ向かう。
実際には、ボブスレーは大会スタッフが押した。メンバーは一緒に歩いてゴールしている。
■ テーマとオチのまとめ
Jamaican Flag / 3.26
メンバーとコーチは最後に記念撮影する。
その写真は、ジャマイカの選考委員の壁へ。テリーズの父とコーチが映る写真の上に飾られた。
メンバーはオリンピックに出る夢をかなえた。
■ その後
jamaica / Rod Senna
・その後。ジャマイカチームは、1998年の長野五輪まで4人乗りボブスレーに参加している。
そして24年ぶりに北京五輪に参加した。
・作品ではコーチのアービングを演じたジョン・キャンディ。
暗い過去を持つ、気難しいコーチだがメンバーを上手く後押しして成長させる。
難しい役を見事に演じ切っています。しかし「クール・ランニング」公開後の1994年に43才で心臓発作により亡くなる。「クール・ランニング」は生前に公開された最後の作品になっています。
・モデルとなったボブスレーチームの一員、サム・クレイトン・ジュニア氏。
2020年3月31日にコロナに感染して亡くなっている。
■ あとがき
Bobsled time / CavinB
家族や友人、恋人と。『クール・ランニング』は、誰といつ見ても楽しい作品です。
挫折したコーチがポンコツ連中を鍛えるのは、映画やマンガで良くあるパターンです。
だが『クール・ランニング』が楽しいのは、雪のスポーツを南国育ちのメンバーがチャレンジすること。さらに実話をアレンジしているとなれば、誰もが興味をそそられるでしょう。
見事な脚本で、ジャマイカがボルトやベン・ジョンソンなどの短距離選手で強いことも上手く組み込んでいる。オリンピックで、対立チームを含めて全員が成長していくのも爽快感が有ります。
映像の完成度も高い。私はF1やモトGP。機械を使ったレースに興味が有り、オリンピックでもボブスレーやリュージュは良く見ています。「クールランニング」でコースを駆け抜けるシーンは、爽快感と迫力が有りとても好み。盛り上げる演出も良く、「クール・ランニング」公開時にボブスレーが大人気となったのもうなづけます。
■ 関連商品
気になる方、「また観たい!」時用に紹介。
■ 映画
クール・ランニングの媒体版は、ブルーレイが未発売。
いまのところDVDのみとなっている。
■ 配信
• Amazonプライム
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➤ 字幕版 クールランニング
■ 音楽
・「クール・ランニング」 サウンドトラック
音楽部分はハンス・ジマー。劇中で使われた歌が多く収録される。
なお日本版のサウンドトラックCDは3回発売されている。
・ 期間生産限定版
最新バージョン。
2019年に期間限定生産盤として再発。価格は1000円になった。新規解説付き。
・通常盤
1993年に発売。2005年に低価格版が発売された。
■ 参考
・Wiki クール・ランニング
・ジャマイカ初のボブスレー代表選手が語る『クール・ランニング』本当の物語
https://www.newsweekjapan.jp/stories/culture/2022/03/post-98273.php
・公益社団法人 日本ボブスレー・リュージュ・スケルトン連盟 そり競技ガイド
http://jblsf.or.jp/attractive/bobsleigh/
■ 更新情報
2022年3月16日(水) 作成