今回紹介するのは、映画『復活の日』
SFだが映像優先の作りになっており、分かりにくい部分が多い。
『復活の日』の不可解な部分やオチの解説。 一度見て分からない方向け。ネタバレ・謎やオチ解説ですので、知りたくない方は見ちゃダメです。
■ はじめに ~ 復活の日(1980)とは
映画の情報や概略。
『復活の日』は1980年のSF映画。
角川制作で海外向けタイトルは「VIRUS」。1964年の小松左京による小説が原作。
監督は深作欣二、撮影は木村大作。主演は草刈正雄ヒロインにオリビア・ハッセー。そのほか日本と海外の有名俳優が登場する。音楽は羽田健太郎。
豪華スタッフと俳優、そして35㎜フィルムを使った世界初の南極ロケなど制作費24億円を投じており、日本では異例のSF大作となった。偶然にも「遊星からの物体X」と同年の南極が主な舞台となっている。
■ 映画のあらすじ
映画のジャンルは、SF軍事+アクション。
原作をベースに、当時の日ソ対立状況からの創作を加えて海外展開向けに制作されている。また小説版と展開や科学解釈、有名なシーンやラストの解釈も異なる。
1981年、新種開発のためのウィルス研究が禁止された。だが1982年にアメリカの軍部が開発していた「MM-88」ウィルスが盗難に遭う。ウィルスを積んだ輸送機が事故を起こし、ウィルスが流出する。その後、カザフスタンで羊が大量死しているのが発見されたのを発端に、イタリアから被害が広がる。
舞台は5月の南極に移る。観測隊で主人公の吉住は働いていた。世界で猛威を振るう「イタリア風邪」の被害は、南極の各国観測隊にも伝わっていた。そして日本にも被害は広がる。吉住の元恋人は看護師であり、激務の中で吉住の子を流産してしまう。
palmer station / Christopher.Michel
その後も被害は拡大して、世界の主要都市が壊滅する。 米大統領は南極に連絡をする。ウィルスは寒さで活動が停止する為「人類のためになんとしても生き残って欲しい」と伝えて死亡。 南極の各国観測隊は集結して、南極政府を樹立して生き残りの方法を模索する。
その後、吉住はアメリカで大地震が起こると予想。研究を見た米国人カーター大佐は直下型地震により、米英の自動報復装置「ARS」が作動して核兵器が発射されると警告する。そしてソ連隊員により攻撃目標に南極も含まれていると明らかになる。イギリス潜水艦に、吉住とカーター大佐が乗り込み、M88の試作ワクチンを使用。致死性ウィルスで壊滅したワシントンDCへ「ARS」の停止に向かう。
ウィルスで壊滅した世界の中で、人類が開発した亡霊である核兵器の発射を阻止する闘いが始まる。
■ 謎解きと解説
設定やわかりにくい部分を解説。
無茶な推測やこじつけなどは避けてます。時間順に紹介。
・ 舞台となる南極基地の場所はどこか?
日本観測隊は昭和基地。そして米パーマー基地では11か国が揃う南極政府が樹立され、話の中心となる。
Radionuclide Station RN73 Palmer Station Antarctica / The Official CTBTO Photostream
■ 登場キャラクターに関する謎。
各キャラクターの不可解な行動や最期について解説
・ 冒頭の東京
英原潜ネレイド号が主人公の吉住を載せて、日本に立ち寄っている。目的地やメンバーが何をしているのかが説明されていないので分かりにくい。
ドローンによりウィルス回収の任務はしているが、南極からわざわざ日本に向かう理由も無い。壊滅した東京を見せる”引きのシーン”だ。注目点は、吉住が彼女との別離で子供を宿したことを話すシーンを回想して泣いており、感情の起伏が少ない吉住だが彼女と子供を愛していたと分かる。
・ 冒頭のウィルス輸送
ここも大事な部分だが分かりづらい。男たちの出自や博士の立場,アイテムの入手経緯が説明されていない。出所不明な謎のウィルスがドイツから更に流出し、謎の人物達に渡るという疑問点が多い展開だ。
原作から映画内容を補完する。 東ドイツの研究所から教授がウィルス「MM88」を持ち出し、謎の男たちに渡す。博士はチューリッヒのウィルス研究で世界的権威であるライゼナウ博士に渡しそうとしている。 教授の行動はM88への対抗策を見出すためにウィルスを持ち出している。動機は、M88はワクチンも無い「使えぬ兵器」だが、利性あるものだけがMM88を手に入れるとは限らない為に恐怖した。
・ 吉住はなぜマリトに惚れたのか。
ノルウェーの女性隊員がマリト(オリビア・ハッセー)。彼女は懐妊しており、吉住は東京に残した身ごもっていた恋人を重ねたと思われる。気丈で凛とした雰囲気も似ていますね。
・ 潜水艦の戦い
SUBMARINO EN ACAPULCO, El SS-21 Capitán Simpson. BASE NAVAL DE GUERRERO. MEXICO (AÑO 2009) / LALO VAZQUEZ
中盤、南極付近でソ連潜水艦T232と英原潜ネレイド号が戦う事態になる。ソ連原潜は感染者を抱えており、食糧補給と治療の必要があった。一方の英原潜は感染流行前に着任しているため感染を免れていた。
なお原潜は長期潜航が可能だが、実際は食料補給や休息があるため英原潜が感染してないのはかなり幸運に思える。そして撮影に使われた潜水艦(CNS Simpson)は原潜ではない。また一隻しかないので、艦内照明を赤主体にしたり、犠牲者に国旗をかけたりとロシア側に見える工夫がされている。*1
・クリスマス。吉住は何をしている?
クリスマスパーティー。吉住はマリトと子供に関して話した後に外出し、雪像を作っている。これはお地蔵さんで「子供を守る」意味が有る。吉住は自分の子を思って作った、もしくはマリトからのプレゼントへお返しと思われる。 言葉少なく感情を表に出さない吉住が、精一杯頑張っているシーンだ。
・ 核発射後に、英原潜はどうなった?
原潜乗組員用にはワクチンが無かったのと、原潜メンバーがラストに登場しない為、全滅したと思われる。
・ なぜ核実験場址を歩くのか
Crater Wall / uncleboatshoes
ボロボロになった吉住が断崖を歩いているシーン。デスバレーで撮影されている。 多くの人が疑問に思う部分と思われるが、吉住が居たワシントンからすると西方向となり位置関係がおかしい。 しかし木村監督いわく「そもそも歩いてペルーまで行くことがおかしい、これが映画だ。そして映像の迫力を取った」とのこと。
なお陽炎の中を歩いてくる吉住は1000㎜レンズで撮られている。*2
・ マチュ・ピチュ遺跡を歩く吉住
Machu Picchu, Peru / szeke
子どもの頃に私は『復活の日』を見た時に、マチュ・ピチュ遺跡を吉住が歩くシーンで「どこ歩いとんねん」と思った。当遺跡が高地にありアクセス困難なのは大多数の人が知っている。滅んだ文明の址を歩くという意味も有るだろうが、勢いで撮った感が凄い(褒めてます)。凄いぞ。
・ 吉住が歩く海岸、捕まえている魚は?
作中の流れからするとチリ海岸だが、実際の撮影は千葉で釣師海岸で行われた。草刈はスズキを捕まえている。同地は深作欣二監督の映画「魔界転生」や「軍旗はためく」でも使われた。*1
・ ラストシーンの裏話
本栖湖-01 / maijou2501
吉住とマリトが抱き合うシーンは、オリビアハッセーの来日に合わせて本栖湖で撮影されている。周りも日本人だ。 *2
■ オチについて ~
anta0071 / NOAA Photo Library
核弾頭が世界を壊滅させてから4年後。吉住は歩いて南下している。 そして南極を砕氷船で脱出していた女性と子供,博士たちと合流する。ラストに吉住と出会う20名ほどが生存者と思われる。
南下中に吉住は魚を捕まえており、エンディングではペンギンが映っている。生物は絶滅を免れていた。
・ 世界はなぜ復活したのか
fish8405 / NOAA Photo Library
ラトゥール博士の研究ではウィルスに放射線を当てると、ウィルスを抑える抗体が作られる。
つまり吉住達が止められなかった米ソの核攻撃が、皮肉にもウィルスを抑える抗体を作り出したと思われる。
fish8428 / NOAA Photo Library
■ 「復活の日」公開後のエピソード
小松左京は「復活の日」で地震を研究して得た知見から後に「日本沈没」を作っており、もうひとつの大作を生んでいる。映画としては『復活の日』は配給収入で24億円を記録するが、制作費が高額だったためビジネスとしては失敗だった。制作の角川春樹は復活の日を作れたことと、世界に挑戦できたので夢をかなえたとして大作志向を終了して、後の利益が出るアイドル路線に遷移していく。
■ おまけ - 鑑賞法と映画の見どころ
「復活の日」の見どころをいくつか紹介する。
■ 恐怖と絶望
人類が生み出した兵器で、自ら滅んでいく皮肉が描かれている。通常の細菌やウイルスは人類側が耐性を持って収束に向かうが、M88は人類が改良した兵器で有り、対抗策が無い。宇宙人や隕石の激突と同様の手に負えない存在だ。
■ 豪華なロケ。
Death Valley / Janitors
実写の迫力が凄い。南極での撮影はもとより、主人公がデスバレーの核実験場址やマチュピチュを歩くなど。感染被害がでる各国の映像も本撮影の一年前にロケハンで撮られている。
本物の潜水艦を借りれたのも大きな成功要因でしょう。潜水艦を貸し出す懐の広さに脱帽だ。
■ 原作との違い。
ビジュアル面が強化されたのに伴い、テーマも変わっている。差異をいくつか紹介する。
・無線シーン。映画では送信側の子供が機器の使い方を知らない上の悲劇だが、原作では故意に返答をしていない。
・オリビアハッセー演じるマリトは、原作でイルトに相当するが年齢が高い女性となっている。
・ARSの動作。原作では南極が攻撃目標から外れており、人間が愚かではないことを描いている。そのため若干、小説版のほうが希望が多い。
■ 残念なところ
復活の日は映像に力点が置かれている。復活の日の凄い所でもあり魅力だが、弱点もありキャラの行動や気持ちが分かりにくい。
主人公吉住や恋人則子、そしてマリトも表情が少なくあまり語らないタイプ。 日本人観客はなんとか理解できても、海外では通用しなかったと思われる。
あと動きが少ない映画に感じる。ロケとセットのシーンがはっきり分かれており、移動している感じが少ない、
■ 感想
Moon over Antarctic / NASA Goddard Photo and Video
私が友人と「日本でハリウッド型の大作志向で最高の映画は何か?」と話す時に、よく話題になるのが『復活の日』です。
「復活の日」を私は数年おきに見ているが、久しぶりに見て画質が向上しており新鮮に見れた。 そしてコロナウイルスと重なるような描写も多い。見ていてあまりに現実とリンクしており、娯楽映画ではなく寒々しく感じた。ワクチンは効かない。イタリアで母親が子供を抱えて病院に殺到する姿。 軍艦が感染してしまい上陸を強行しようする。壊滅した各都市に死亡者数がテロップで出る。風に似た症状で始まり、肺炎を起こして死亡するなど。
復活の日は映画公開時点でも40年前の作品。内容はかってはSFだったが、時代が経って現実が近づいた。今では「復活の日」は軍事、科学シミュレーションになっていると思った。40年も経っていまだに迫力ある映像とテーマを持つ大作です。
■ 関連商品
現代のメディアでは暗いシーンや室内シーンが見易く「こんなものが映っていたのか」と新鮮な気持ちで見れた。
■ 配信
・ プライムビデオ 字幕
https://amzn.to/3aRMurn
■ 映画 - メディア版
・復活の日 4K Ultra HD Blu-ray
4K UHDディスク、Blu-rayディスクの2枚組。
オーディオコメンタリーが面白い。(深作欣二監督×木村大作キャメラマン×岡田裕プロデューサー×美術:横尾嘉良×製作担当:長岡功)
・DVD
■ サントラ
主に2種発売されている。
・復活の日 サウンドトラック
・復活の日の印象/CD/FJCM-19
■ 書籍
・
● パンフレット
・映画パンフレット
■ 視聴データ: DVD版、プライム 字幕
■ 参考、関連サイト
*1 コメンタリー
*2 トークショー 『復活の日』[4Kデジタル修復版] トークショー “VIRUS" [4K Digitally Restored Version] Talk Show
https://www.youtube.com/watch?v=3Z1lUUzqzXE
■ 更新情報
2020年4月8日 作成